コロナ禍初期、最低7年分の旅客輸送量の伸びが消失

IATA(国際航空運送協会)による2020年の旅客輸送量48%減の試算を受け、Ascend by Ciriumが航空会社と航空機製造会社への影響を解説

Ciriumのコンサルタント部門、Ascend by CiriumRob Morris(グローバルコンサルタント統括)は、IATAによる今年の旅客輸送量48%減という予測が現実になった場合、2020年に少なくとも7年分の航空旅客輸送量の伸びが帳消しになると予測しています。

この厳しい予測により、世界の航空業界や新型コロナウイルスによる旅行や観光業への連鎖反応について、数多くの疑問が提起されています。

本稿では、Rob Morrisが航空会社や航空機製造会社(OEM)に関する疑問の一部を取り上げ、Ascend by CiriumのチーフエコノミストであるPeter Morrisも、GDPや貿易と観光業に対する影響について自身の見解を述べます。

2020年以降の見通しから、航空業界として何が見えてきますか。

Rob Morris:それは、非常に多くの要素によると思います。まず初めに、新型コロナウイルスがグローバル経済にもたらす広範囲の影響についてです。特に、パンデミック(世界的大流行)の制御を試みるために世界・地域規模で実施されている様々な措置が挙げられます。また、渡航制限そのものの解除を見届ける必要がありますが、現時点では、いつ旅行が可能になるのかの兆候が全く見られません。

それに加え、航空旅行の根本的な需要においても変化が訪れる可能性があります。例えば、現在我々がリモートワークに慣れつつある中、指導者らは従来の大掛かりな海外出張を伴わずして、一部のビジネスが機能しうることに気付き始めています。よって、出張の需要回復は比較的緩やかになる可能性が高そうです。余暇の面においては、不況により可処分所得が減少している関係で、不要不急の旅行も同じく回復に時間がかかるでしょう。

空の旅の需要回復が、短期・中期的な視点で比較的緩やかなものになるシナリオは容易に想像できます。2019年に達した需要(旅客輸送量)水準まで回復を果たすには、IATAの試算シナリオにある2020年の需要水準を100%上回る伸びが必要となります。これまで述べた点を踏まえると、仮に今後2年間(21年・22年)かかったとしても、これだけの成長幅を達成することは極めて楽観的に受け止められます。

この需要が生じなかった場合、航空業界の姿が大きく変わり、ひいてはOEM業界が圧迫される事態になるでしょう。2020年当初、民間ジェット旅客機の運用機数は約2万3710機でしたが、今年IATAの予測通りに物事が進展しなかった場合、上記のうち最大7000機がたちまち余剰になる可能性があります。仮に、21年・22年に著しい伸びが見られたとしても、潜在的顧客需要を上回る機材が多数発生します。むろん、この余剰は当初エアバスとボーイングが今後2年間に予定していた新造機の納入を除いた機数です。

前述の余剰と、需給に対する影響の観点から見た展望はいかがでしょうか。

Rob Morris:エアバスはナローボディ機の生産量がピーク近くまで推移していました。ボーイングも、737MAX型機の不具合がなければ同等レベルを達成していたと思われます。しかし、それはほぼ一夜にして一転し、現在このような航空機は事実上全て余剰となりました。航空会社の現在の保有機材に比べれば、言うまでもなく余剰機の方が効率的ではありますが、前代未聞のグローバル石油価格の暴落により、この効率の価値は差し当たり低下しています。

エアバスが航空機生産を3分の1削減する計画を発表した際、同社の従来の性質に反し、迅速にかつためらうことなく行動を起こしたことに驚きを覚えました。当社は必要な措置を把握するために、間違いなく広範囲の顧客ベースに相談をしたものとみられます。よって今回の行動は、エアバスが直面した問題の規模を明白に示していると言えます。

そこで重要なのは、エアバスの動きが十分か否か、という点です。航空業界の成長が必要とされない状況は、長期化する可能性が高いでしょう。最盛期であっても、旧技術から高効率の新技術へ移行するために、必ず入れ替え用の納入が一部予定されます。よって、年間600機程度の退役が必ず発生し、新造機納入によって入れ替わります。定常状態であれば、減産後のエアバスの生産量は年間約550機に相当します。(2020年にエアバスがこの納入数を達成するとは思えませんが。)この生産量だけでも、通常の代替需要をほぼ満足することになります。

またボーイングが同様の動きを示していることを踏まえ、今後数年は年間の機材退役率が従来の予想を上回ると考えます。

ボーイングがMAX型機で解決すべき不具合を抱えていることは明らかですが、いずれMAX型機が運航再開を果たした暁には、予定よりも緩やかな生産開始および増産となることでしょう。来年早々に向けて月産機数を14機から10機に絞る予定の787機については、追加減産の可能性が高いと思われます。また言うまでもなく、777-9Xの飛行実験計画もすっかり動きが見られなくなりました。これも、21年半ばの運航開始が更に後ろ倒しされる可能性が高いと考えます。

資金繰りに追われる航空会社各社は、今のタイミングで貴重な資金をこれ以上新造機納入(または納入に付随するPDPも同様)に注ぎ込もうとはしません。よって、今後は納入の見送りや中止を決める顧客や、新たな需要水準に供給を合わせるべく迅速な減産に追い込まれるOEMが相次ぐと思われます。

我々が2020年を乗り切る頃、航空業界は極めて合理化され、世界的な業界規模は縮小しているでしょう。また、リースや航空機ファイナンス分野も合理化が進み、OEMの出来高は、たった12ヶ月前の見通しに比べて減少していると予測します。

航空業界は過去10年間急成長を遂げてきました。この成長は旅客需要のみによるものだったのでしょうか。または、リース会社の競争もある程度需給を左右したと思われますか。

Rob Morris:過去10年間のCAGR(年平均成長率)6.6%は、根底にある経済の基礎的条件がしっかりと整っていたことに加え、航空旅行コストが低下し続けたことによる結果です。いずれも、航空会社のコストモデルの効率化により実現したわけですが、業界内の競争による力も働いています。その力が当初の予想以上に若干成長を促したことも考えられます。

コストの低下も、航空会社の取得原価が低水準で推移したことが、ある程度は要因になっているかもしれません。これは、質問にもあったリース会社の競争激化に関係していますが、航空会社に対して他に潤沢な資金が利用可能であったことにも起因しています。航空会社の一部は、この時期を通じて財務業績により信用リスクプロフィールと投資潜在力を従来のレベルから根本的に改善することができました。その結果、他の業界に対して航空ファイナンス業界に投資が集中しています。新たな需給の力関係の中では、低い信用度や質の悪い資産が不健全化しており、比較的新しい資金はリスクを伴います。こういった情勢もこれから変わっていく勢いです。

GDPへの影響、中でも貿易と観光業への影響はどう予測されますか。業界の一部は永遠に変わると思われますか。

Peter Morris:この業界では、旅客輸送量が60年間成長し続けてきました。年間成長率に置き換えると、5~6%に及びます。また、今後数十年は4~5%減速すると予想されていましたが、これは業界の根本的な構造における大きな変化ではなく、むしろ業界の成熟によるものと受け止められていました。この業界は、地域と世界のGDP成長の集合体が原動力となっていました。

金融危機や、SARS(重症急性呼吸器症候群)、9・11米国同時多発テロといった、様々なショックの影響が歴史的な実績となり、それが航空輸送業界の回復力への信念を助長してきました。今抱えている重大な問題は、航空旅行環境がコロナ禍前と同じくらい安全であるとお客様に安心していただくまでに、どれだけの時間を要するのか、ということです。これは空の旅だけに限らず、ホテル、観光スポット、カンファレンス、サービス業全体といった、観光エコシステムに欠かせない要素も他の含まれます。有効なワクチンや他の手段が確立されたとしても、この安心感を取り戻すにはしばらくの時間を要するでしょう。

今年のウイルスは、2020年の全世界GDPに対し3%以上の不況をもたらすとみられており、2021年も緩やかな回復にとどまります。よって、いずれにしても業界の回復は緩慢なものとなるでしょう。

とはいえ、全世界で10兆米ドルの価値を誇る旅行・観光産業は、ビジネス・レジャー経済の様々な側面において根本的な原動力であるため、いずれ回復は訪れるでしょう。ただ、「リスクがある」目的地や密閉環境などの一部においては、特に時間がかかると思われます。健康監視や当局による制御機能により、封じ込めが比較的容易とみなされる短距離の国内旅行は、最初に回復する領域の一例と考えられます。最大の課題であり、収益性と低価格の実現に規模の経済と高いロードファクター(有償座席利用率)を要する世界規模の航空旅行産業は、「密」が引き起こすこの疾病が根本的に解決されるまで、当面高額でかつ希薄なネットワークでの運航を強いられると考えます。

弊社では、最新データと旅行・観光業に対する広範囲の影響に関する詳細分析と共に、リアルタイムの最新レポートを新型コロナウイルスによる航空業界への影響で紹介しています。こちらコンサルタントチームによるインサイトもご覧ください。

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