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Ascend Consultancy, 航空専門家の視点, 航空機投資

2023年6~7月の商用航空機市場センチメント指数:どうやってここまで来たのか?

September 11, 2023

Ascend Consultancyは2021年4月、商用航空機市場センチメント指数(CAMSI)を導入しました。この月次指標では、主要市場のステークホルダーへのアンケート調査を通して、市場センチメントと価値・リース料のトレンドを追跡します。ステークホルダーには、リース会社、銀行、OEM、パーツアウト事業者、航空会社、ブローカーが含まれます。

Michael Graham, Ascend by Cirium

筆者:Michael Graham, Valuations manager at Ascend Consultancy

Ascend by Ciriumは2021年4月、商用航空機市場センチメント指数(CAMSI)を導入しました。この月次指標では、主要市場のステークホルダーへのアンケート調査を通して、市場センチメントと価値・リース料のトレンドを追跡します。ステークホルダーには、リース会社、銀行、OEM、パーツアウト事業者、航空会社、ブローカーが含まれます。

私たちはCAMSIにおいて、NPS指標の手法を使用しています。これは、「高過ぎる」または「上昇傾向にある」の回答数から「低過ぎる」または「下降傾向にある」の回答数を差し引き、それを当該の質問に対する総サンプル回答数で除した割合として算出されます。40~-40%の範囲のスコアは概ね「安定」を表し、-40%未満のスコアは「否定的センチメント(感情)」を表し、40%超のスコアは「肯定的センチメント(感情)」を表すものとします。

2023年6~7月の商用航空機市場センチメント指数:どうやってここまで来たのか?

「あなたは突然、世界の別の場所で大きな車のハンドルを握っている自分に気づくかもしれない……。そして、『私はどうやってここに来たのだろう?』と自問するかもしれない」。 アメリカのロックバンド、トーキング・ヘッズの1981年のヒット曲『ワンス・イン・ア・ライフタイム』の冒頭で投げかけられたこの疑問は、商用機材の市場価値とリース料の回復という点から見て、現在の状況を適切に言い表しています。特に、ここ12ヵ月の間に急激に顕在化した機材供給面の課題を考えればなおさらです。

CAMSIがスタートした2021年4月時点では、機材価値とリース料はともに低迷状態にありました。特に古い機材の保管料は高騰したほか、多くの市場で厳しい渡航制限や予防接種の適用範囲が制限されていたため、多数の機材タイプの需要がほぼ壊滅していました。後知恵を働かせれば、いずれ需要が回復するとともに、機材の価値やリース料が回復することは容易に分かります。それでも、価値とリース料に関するNPS指標の回復状況は、ここ数ヵ月で注目すべき傾向を示してきています。

ソース:Ascend Commercial Sentiment Index

今年5、6、7月に実施した市場価値とリース料に関するCAMSI調査では、2013年製のエアバスA320-200シャークレットとボーイング737-800ウィングレットのNPSが、初めてシングルアイル機全体の平均値を上回ったことが分かりました。

つまり、この調査への回答によれば、中程度のビンテージ(ミッドビンテージ)機の価値とリース料は、新造の後継機よりも上昇傾向にあります。

これは一時的な現象かもしれませんが、劇的な逆転劇であり、旅客機市場がいま直面している多くの現実を物語っています。

そのような現実の最たるものが、前述の新造機材の供給不足であり、それが航空会社やリース会社への納入の遅延となって表れています。機体、エンジンのOEMともに、新型コロナウイルスのパンデミック時にサプライチェーン面で壊滅的な打撃を受けており、現在もその復旧に奔走しているところです。2022年のCirium Fleet Forecastを見ると、エアバスは、中期目標であるA320ファミリーの月産75機の生産水準になるまで、少なくともあと2~3年はかかるという状態が続いています。ボーイングの米ワシントン州レントンの工場についても、生産見通しはエアバスよりやや良好という程度です。相次ぐ飛行トラブルで窮地に陥ったボーイング737Maxの月産機数は、ここ数ヵ月で38機まで上昇したものの、運航停止前およびパンデミック前のピークだった月産52機をなお遥かに下回っています。

その結果として、機材納入の遅延が、航空会社にとって運航上の大きな障壁となっていることは容易に想像できます。

エアバスは4月に声明を発表し、A320neoファミリーについて、最低3ヵ月間の納入遅延が2024年まで続く可能性があることを明示しました。この明確な謝罪声明は、航空会社にとって有益な見通しを提供した可能性はあります。しかし一方で、従来通りの夏のピークシーズンに新造機の納入を間に合わせることができない以上、納入遅延の発表も、煙探知機のスヌーズボタンと同じ程度の効果しか生まないという事実に変わりはないのです。その上、今は3ヵ月程度の遅れであれば、まだ良好な成果だとみなされるようにもなっています。6ヵ月以上の遅れがかなり一般的になってきているのです。とはいえ、このような難局を乗り越える中で、数多くの航空会社が、運賃の値上げを通じて、キャパシティ不足による利益を得てきたことも忘れてはなりません。これまでと同様、最終的に費用を支払うのは乗客なのです。

同様にエンジンのOEMメーカーも、相応の試練に見舞われています。注目すべきは、最新世代の動力装置の飛行中における信頼性という点で厳しい局面に立たされていることであり、特にそれはプラット・アンド・ホイットニーのPW1100GとCFM Leapに当てはまります。プラット・アンド・ホイットニーは最近の発表で、特定のエンジン部品の製造に使用される粉末金属に”稀な状態”が発生したため、迅速なフリート検査が必要になると判断したと述べました。これにより、点検のために機材を一時的に運航から外さなければならなくなり、機材供給に関するさらなる問題に繋がる可能性が高まっています。こうした事態が、MROの設備が既にフル稼働になっている状況下で起きたのです。

こうしたあらゆる状況を考慮すると、市場価値およびリース料にはどのような影響が及ぶのかという疑問が生じてきます。以前にThought Cloudで書いたように、激増する需要によって新造機の供給が逼迫していることから、航空会社がキャパシティを増やす代替手段を求めるなかで、旧世代機の市場価値およびリース料はいずれ上昇する可能性があります。最近、Cirium Ascend Consultancy Values Review Boardは、A320ceoファミリーと737NGの現在の市場価値の予測を、それぞれ最大29%と最大28%引き上げました。さらに、これまでは敗者とみなされていた旧世代のワイドボディ機でさえ、ここ数カ月は回復に加速がかかっています。6月、エアバスA330の市場リース料の予測は、もともとの数値が低かったとはいえ、最大30%(年式による)上昇しました。それに伴い、第2四半期末には、幅広いデータに基づいてA320ceoファミリーと737NGのリース料の予測もそれぞれ最大23%と17%上昇しました。

ソース:Cirium Core (8 August 2023) compared to 12 and 48 months prior, on a fleet weighted and constant age basis. Includes Passenger and Cargo aircraft. Excludes aircraft older than 25 years.

パズルの最後のピースは、機材リース会社です。私が4月の時点で書いたように、リース料が上昇するこの新しい状況においては、リース会社は強い立場にあると想像する人がいるかもしれません。需給バランスの変化により、リース会社は上記のように高いリース料を請求できるようになったかもしれませんが、一方で多くのリース会社にとっては、資本コストも上昇し、利ざやを圧迫する状況になっています。

特に極めて重要なシングルアイル市場でのリース会社間の激しい競争も、リース料の上昇を減速させ、リース料の各種要因を抑制し続けています。

実際、フリート加重平均ベースでは、ナローボディ(シングルアイル)機の市場価値はほぼパンデミック前の水準まで回復していますが、リース料の方はその水準より14%ほど低いままです。 これは、ほとんど前例がないことです。過去40年間、ほぼすべての景気後退からの回復は、リース料主導で実現してきたからです。

では、CAMSIの最新の結果について、私たちはどう考えればよいのでしょうか?その結果は、現在進行中のコロナ禍後の回復に関して何を明らかにするのでしょうか?第一に、需要が急増する中で新造機の供給が制限されていることが、市場価値とリース料の両方を上昇させる主因になっているのは明らかです。その上昇は、あらゆるビンテージ機の領域でよく見られます。第二に、リース会社は今リース料をより引き上げることができる環境にあるとはいえ、激しい競争によって価格決定力が弱まっているため、自分たちの思い通りには引き上げられていません。しかしながら、航空会社、OEM、リース会社はさまざまな課題に直面しているにせよ、あのパンデミックによる経済的、人的なトラウマを経た現在では、そのような課題もははるかに取り組みやすいものと考えざるを得ません。

激動する民間航空の世界ではいつもそうなのですが、「どうやってここまで来たのか?」ではなく、「次にどこへ向かうのか?」を問うべきなのです。


私たちは、市場のすべての側面を反映させるべく、常に新たなアンケート回答者を探しています。回答者には、調査結果の完全版(上記の内容は主な概要に過ぎません)を入手できるというメリットがあります。アンケートに回答するための時間はわずか3分ですが、それにより回答者は、入手し得る最も大局的な機材価値の市場トレンド情報を手に入れることができるのです。CAMSIのアンケート調査に参加したい方は、michael.graham@cirium.comまでご連絡ください。アンケート回答者には、調査結果の完全かつ詳細な分析(10以上のグラフを含む)が提供されます。

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