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航空機投資, 運航

分析:Impactが航空業界の排出マイルストーンシステムに未来を見出す

September 6, 2023

非営利の航空ファイナンスグループであるImpactが、航空会社が脱炭素化への現実的な道筋を示すための枠組みを打ち出しました。

Oliver Clark, Cirium

筆者:Oliver Clark, Cirium Dashboard Premium Content Editor EMEA at Cirium

航空会社のような炭素集約度の高い業界は、ますます社会的・政治的な監視の目に晒され、その排出量のフットプリントを改善するよう求められるようになっています。

多くの企業が、持続可能な航空燃料(SAF)に関するパートナーシップや低排出航空機研究への参加といった各種の構想を発表しています。しかし、排出量削減にどの程度成功しているかを見極めることは、依然として大きな課題となっています。

金融機関は、排出削減量を測定する方法と、排出削減に報いる方法を模索し続けています。

その最もよく知られた手法の一つが、いわゆる持続可能性連動型の融資です。これは、より燃費効率の高い航空機の納入資金調達のために融資を行い、航空会社が独立した組織によって評価された排出量目標を達成したかどうかによって金利を上下させるというものです。

しかし、持続可能性に連動した融資制度はまだ初期段階にあり、2050年までに排出量実質ゼロ(ネットゼロ)を達成するという業界の長期目標にどう貢献するかについては、未知数なままです。

そんな中、非営利の航空ファイナンスグループであるImpactが、航空会社が脱炭素化への現実的な道筋を示すための枠組みを打ち出しました。その手法は、排出量をキャパシティ上の改善から切り離すというものです。

Impactグループは最新のホワイトペーパー(報告書)の中で、「マイルストーン達成のためのシンプルで透明性の高い採点システムを実現するために、段階的に達成困難度が高くなるさまざまな水準の境界値を使用すること」と、「あいまいな参照用のベンチマークを必要とする状況を変えていくこと」を推奨しています。

マイルストーンは、キャパシティの増加と脱炭素化のカテゴリーごとに定義されます。ある航空会社が特定のマイルストーンを達成すると、それに応じて持続可能性スコアが上昇します。

マトリックス

Impactは、フィンランドの科学者Petri Tapioが2005年に提唱した画期的なコンセプトから着想を得ました。それは、CO2排出量の変化と経済生産量の変化を関連付けることにより、「環境的問題の増大から経済成長を切り離して」評価するというものです。

Tapioのコンセプトを航空分野に適用する場合、CO2の変化率と、有償旅客キロメートル(RPK)で測定される座席キャパシティの変化率について、航空会社のキャパシティの増減を横軸に、CO2の増減を縦軸にそれぞれ示した二次元座標系(マトリックス)としてプロット(グラフ化)します。

中央の座標原点においては、CO2とキャパシティの変化はどちらもゼロとなります。変動状況は、原則として2019年に対して測定されています。

Impactは、異なる基準年を参照しようとする航空会社についても柔軟性を持ち得るとしています。

この座標系に対して、数値を割り当てたカテゴリーのグリッドを重ね合わせます。各カテゴリーは、RPKとCO2削減についての具体的な進展または後退を表しており、2019年からの変化率として測定されています。

その後で航空会社は、時間の経過とともに、2つの座標軸の数値が分離(デカップリング)したことを実証することによって採点されます。

後退の兆候が出ていれば、マイナス点をつけられることもあり得ます。

最高得点は、排出量とRPKの相対的な分離ではなく、絶対的な分離を証明できる航空会社に与えられることになります。

2030年末には、相対的な分離によって獲得したポイントは各社の現行水準で凍結されます。

ここでポイントが失われることはありませんが、航空会社に対しては、それ以降の絶対的なデカップリング、つまり基準年に対する実際のCO2削減量に対してのみ、より高い価値のポイントが与えられます。

標準化されたデータ

この報告書の執筆者の一人で、AvinomicsのマネージングパートナーでもあるPhilipp Goedeking氏はCiriumに対し、Tapioの画期的な構想が成就するためには、少なくとも2019年まで遡りつつ、現行および過去の排出量データを提供する航空会社の高い参加率が必要だと語っています。

数字の裏付けがなければ、自分たちが何をしているのか分からなくなります。

Philipp Goedeking

Impactは、これまでに航空会社が作成した過去のESG(環境・社会・ガバナンス)や排出量のレポートを収集してきました。しかし、Goedeking氏は、必要なデータを作成していない、または標準化された方法でそれを提供していない航空会社がなお存在していると言います。

同氏によれば、航空会社による「相対的デカップリング」については近年、ある程度の進展が見られています。これは、SAFやその他の構想が盛んに打ち出される以前から起きていた現象です。しかし同氏は、トレンドはデータなしでは分析できないと強調します。

「何が本当の成果で、何がグリーンウォッシュだったのか?どれだけの進歩が、さらに力強い成長によって上書きされてしまったのか?実体を知ることが必要なのです」と、同氏は述べています。

年ごとに、あるいは3年の間に大きな進歩を遂げながら、その後何も起こらない航空会社も見かけるようになっています。あるいは、何年も何もしてこなかったのに、突然何かが起こる航空会社もあります。

Philipp Goedeking

「それこそが、私たちが基準年を参照しなければならない理由なのです」と、Goedeking氏は話します。「神の啓示を告げる大天使ガブリエルの観点から見れば、2019年と比較して、2050年までにどれだけ脱炭素化できたかが重要なのです」

Impact理事長のUlrike Ziegler氏は、銀行やリース会社を含むImpactのメンバーたちが、6ヵ月から12ヵ月以内に、マイルストーンの目標とデカップリング基準の導入を開始すると期待しています。

Ziegler氏は、航空会社に対しては、数値計算のための標準化データを提供するよう求める圧力が今後、強まるだろうと予想しています。提供しなければ、融資の選択肢から外される可能性があるからです。

航空会社には説明責任が求められるようになるでしょう。1社、2社、10社がそうした測定基準に沿って報告するようになれば、他社も従わなければならなくなるのです。

Ulrike Ziegler

Goedeking氏は、排出量データを提供できない航空会社には、可能な限り低い点数、または”非常に汚れている”のマークが付けられてしまうと付け加えました。

また同氏は、マイルストーンのコンセプトを使用すれば、航空会社の進歩の状況について、金融機関だけでなく、広く一般市民が測定できるような透明性のある指標を提供することができると述べています。

「私の考えでは、市民による監視は、消費者、そしてさらに重要な航空会社の側の行動変容を促す上で、少なくとも最も強力な手段の一つになるでしょう」

「この市民による監視は、私たちが透明性を生み出すために本当に推進したいことです。そしてそのためには、単なるグリーンウォッシュの一形態であるという主張に対抗できるような、堅固な透明性のある方法が必要です。透明性のある方法とは、それが真実であり、正しく、偏りがない場合にのみ機能するものです」

Impactによれば、リース契約やローン契約に関して、「資金使途型」または「持続可能性連動型」のどちらが優先されるかにかかわらず、明確かつ持続可能な開発の基準またはコベナント(誓約)が、融資上のコベナントを補完するためにますます不可欠になってきています。

Impactはデカップリングについて、航空機の資金調達に関する持続可能性重視のコベナントの一例として「ほぼ理想的な測定基準」であると説明しています。

さらに、適切なマイルストーンを設定するために、仮定や予測のモデルは必要ないとしています。

このマイルストーンの基準は、「完全に透明性があり、その境界値は2050年までは一定である」とも主張しています。

マイルストーンのコンセプトは分析的に健全なものであり、理解、解釈、実行が容易です。早くから何よりも持続可能性を着実に高めてきた航空会社は、野心的ではない競合他社よりも、マイルストーンに早期に到達する可能性が極めて高いのです。

Philipp Goedeking

「最後になりますが、マイルストーンのコンセプトは、本来測定すべきものを正確に測定するという考え方です。それとは対照的に、予測に基づくベンチマークは、少なくとも航空機ファイナンスの用途においては、実用的なメリットがほとんどないことが判明する可能性があります」と、前出のホワイトペーパーでは述べられています。


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