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Ascend Consultancy, 航空専門家の視点, 航空機業界の動向予測

Ascend Consultancyによる今後の展望:中国発の海外旅行は晴天に恵まれるか?

October 16, 2023

中国の団体旅行禁止措置が解除された後、市況が急速に回復する可能性はあるのでしょうか?

Joanna Lu, Ascend by Cirium

筆者:Joanna Lu, Head of Consultancy – Asia at Cirium Ascend Consultancy

3年という長い禁止期間を経て、中国人旅行者はようやく厳しい規制に直面することなく、国内外を旅行できるようになりました。そのような関連規制は今年1月にほぼ解除されましたが、待ち望まれていたアウトバウンドの回復は期待通りには実現していません。中国の国際線キャパシティの復元はなお遅れており、今年8月末時点では、パンデミック前のレベルと比較すると座席数ベースで約50%減少しています。最大の長距離市場の一つである米国については、2019年8月比で90%減となっており、まだかなり遅れている状態です。ヨーロッパとアジア太平洋地域はともに50%減となっています。

中国からの上位の目的地は現在、香港、日本、韓国、台湾、タイなどの短距離路線地域が中心です。しかし、このいずれの市場も2019年の水準までは回復していません。

中国発アウトバウンドの追跡フライト数(2019年との比較。地域別)

中国の団体旅行禁止措置が解除された後、市況が急速に回復する可能性はあるのでしょうか?

最近、主要市場への団体旅行禁止が解除されたことは、明らかに市場への前向きなメッセージになります。海外旅行では言葉の壁や文化の違いを経験する可能性があるため、団体旅行はあらゆる年齢層やタイプの消費者に大きな影響を与える旅行方法だからです。 それでも、すぐに好影響を与えるとはまだ言えないかもしれません。供給サイドにはいくつかの問題が残っています。

旅行代理店はここ2、3年で大きな混乱に見舞われました。このため、人員を増強し、目的地市場で新たな提携先を探し、商品をパッケージ化するといった点で、サプライチェーンを再構築するには時間がかかるでしょう。これらすべてのことには、時間が必要です。

最大の障害はパスポートとビザの手続きです。多くの中国人旅行者は、パンデミックの期間中にパスポートが失効しているはずです。現在、パスポートやビザの更新は可能になっていますが、未処理の手続きや残務を完了するには数ヵ月かかります。また、渡航先の国々の観光ビザについては、人員不足のため、手続きや発給に時間がかかることがあります。航空会社のキャパシティという観点から見ると、中国の航空会社にとっては、ワイドボディ(ツインアイル)の機材が(国内路線網で)概ね稼働中であるか、またはそうした機材の再配備の準備ができているため、おそらく対応は容易なことでしょう。しかし、外資系航空会社にとっては、他の市場の同時期の回復、あるいはもっと早い(そしてより利益の見込める)回復の可能性を睨みつつ、中国向けの運航ネットワークと機材計画を練り直す必要があるため、対応に時間がかかってしまうのです。

旅行パターンの変化

これらすべての課題を考慮すると、中国のアウトバウンド市場が意味のある回復を示すようになるのは2024年からというのが、より現実的な予想となります。しかし、パンデミックは人々のものの考え方や旅行先での行動を一変させました。買い物好きで知られる中国人旅行者ですが、パンデミックの後は、「所有」よりも「体験」に投資する傾向が強まっています。

中国ではここ3年間、海外旅行は制限されたままでしたが、国内旅行は盛んでした。

この時期、国内市場は成熟し、旅行者はより洗練されたものを求めるようになりました。航空会社が潜在的な市場を注意深くモニタリングし、モルディブやタヒチなど、以前は中国人旅行者向けのニッチ市場ともみなされていた島嶼部の旅行目的地を開拓し始めたことは、注目に値します。とはいえ、対外貿易の鈍化、投資の減少、失業率の上昇といった中国のマクロ経済環境には、多くの不確定要素が残っています。国内消費にも減退の兆しがあります。

日本は中国からの目的地市場として成長するとみられるが、潜在的なリスクに見舞われる可能性がある

Ciriumの2023年第3四半期のスケジュール・データでは、日本がますます中国の目的地市場となっていきそうな傾向が示されており、両国間路線の総座席数(座席キャパシティ)も、同年第2四半期と比較して65%増加しています。とはいえ、留意しておきたいのは、この日中間路線市場の座席数が、2019年第3四半期比では60%近く減少しているという点です。私たちがいま目にしている成長は、中国の航空会社が牽引しているものです。成長を牽引している都市は上海で、中国東方航空吉祥航空春秋航空が、それぞれ今第3四半期に座席キャパシティを2倍または3倍にしていることが判明しています。

中国同様、日本からの海外旅行(アウトバウンド)も回復しておらず、現在は30%減の水準となっています。しかしながら、日本とアメリカを結ぶ路線については、2019年の水準の95%まで回復しており、全体として日本へのインバウンド輸送に依存する市場となっています。

現在は為替レートが円安に振れていることも、中国人の飛行機利用者、つまり中国の旅行意欲の高い人たちを引きつける理由の一つになっている可能性があります。それでも、日本の原発処理水の放出をめぐる中国との新たな対立は、日本の観光業界にリスクをもたらすかもしれません。

日中間路線の予定フライト数(2023年第3四半期と第2四半期との比較)

全体として見れば、中国では人々の関心が進化し、ものの考え方も変化して、体験型の消費へと徐々にシフトしていく可能性があります。そのような傾向はすべて、アウトバウンドの観光業界が成長し、状況に適応しつつあることを示しています。そうであっても、地政学やマクロ経済上の不確実性が進展を妨げるというリスクもあるのです。


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