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航空路線の再編――グレーターベイエリアに注目する


香港空港管理局は、周辺地域の競争力を高めることを目的として、航空会社に対し新規路線の開設と増便を奨励する施策を戦略的に導入しています。

Aircraft Appraiser of the Year
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Cirium Ascend Consultancyのチームをご紹介します。

Lionel Olonga

Ascend Consultancyチームの視点

Lionel Olonga
Senior valuations analyst
Cirium Ascend Consultancy

香港空港管理局は、周辺地域の競争力を高めることを目的として、航空会社に対し新規路線の開設と増便を奨励する施策を戦略的に導入しています。しかしながら、この手法は前向きな動きではあるものの、現地の人手不足と地域内の連携強化という広範な課題に対処するには不十分であることを証明するかもしれません。これらの問題をさらに深刻にしているのが、ロシア空域の使用制限による不公平な競争を理由に、一部の外国航空会社が中国発の運航を取りやめたことです。香港、マカオ、広東省を含むグレーターベイエリア(GBA=大湾区)の空港にまつわるこうした不利な状況は、この地域の当面の見通しに疑問を投げかけるものとなっています。

さまざまな改善努力にもかかわらず、香港国際空港(HKG)のキャパシティは、新型コロナウイルスのパンデミック発生前の水準を下回る状態が続いています。Ciriumのデータによると、2024年第2四半期の香港出発便の座席キャパシティは、2019年同期と比べて29%減少しています。HKGは全地域向けにおいて大幅な減便に見舞われており、特にアフリカ、ヨーロッパ、オーストラレーシアへの路線の減便が最も顕著となっています。こうした苦境は、政情不安、経済的圧力、近隣空港との競争激化など、さまざまな要因に起因すると考えられます。それでも、最大の障害はやはり慢性的な人材不足です。

輸送キャパシティが完全に回復する時期の予測を下方修正し、従来の2024年末ではなく2025年第1四半期の回復を目指すとしています。この遅れはパイロットと客室乗務員の不足に起因するものです。加えて、地上ハンドリングサービスの提供業者も人員不足に悩まされており、そのために外国航空会社のフライトのハンドリングを断ったり、過度に高いサービス料を課したりしているのです。このような労働力不足は香港の接続性を著しく阻害し、世界の航空関連産業における香港の全体的な回復をも妨げています。結果として、航空券の価格は高止まりし、旅行者が利用できる発着路線の選択肢も限られることが予想されています。

GBAの主要空港の出発便座席数

The departing seat capacity of major GBA airports
Source: Cirium Core

主要2空港である広州白雲国際空港(CAN)と深圳宝安国際空港(SZX)の座席キャパシティは、国内市場の力強い回復により、パンデミック以前の水準を上回りました。CANの全体的な便数および座席数は増加しており、特にアジア市場向けの伸びが顕著となっています。しかし、北米とオーストラレーシアへのフライトは著しく減少しています。有効座席キロ(ASK)の推移を見ると、CAN発着の大陸間輸送の回復がまだ遅れていることが示されています。SZXは、国際ハブ空港としての重要性が増していることを反映し、アジア、ヨーロッパ、中東線を中心にフライトが大きく伸びています。しかし、オーストラレーシア、北米各線のフライトは急減しました。

GBA主要空港の有効座席キロ(ASK)ベースの座席キャパシティ

GBA主要空港発フライトの地域別キャパシティ

Flight capacity by region from major GBA airports
Source: Cirium Core

香港はグレーターベイエリア(GBA)内での競争激化に直面しています。国際航空会社が他の地域ハブ空港への直行路線を選択する傾向が強まっているため、トラフィック(輸送量)が香港から流出している可能性があります。この課題に香港が対処するためには、航空会社に運航を維持してもらうべく、財政面で魅力的な環境を用意することが不可欠です。この戦略において鍵となる要素は、パイロット、客室乗務員、地上ハンドリング担当者を含めた現在進行中の人員不足に対処することです。香港政府が航空セクターのために導入した労働力輸入スキーム(Labour Importation Scheme)は、こうした人的資源の目先の制約を緩和し、地域における香港の競争力を支えるものと期待されています。CANとSZXはともに2019年第2四半期から2024年第2四半期にかけて成長したことを示しており、CANは6.85%、SZXは18.39%という大幅な輸送キャパシティの増加をそれぞれ記録しています。これは、両空港が地域の主要ハブ空港としての地位を高めていることを示唆しています。深圳の急成長は、香港から市場シェアを奪う可能性のある戦略的転換を示しているのかもしれません。とはいえ、両空港とも、地政学的緊張の影響を反映して、北米へのフライトは減少しています。全体としてみれば、これらGBAの2空港の拡大ぶりは、グローバルな力学の変化によってもたらされる課題に直面しながらも、両空港が地域における重要性を高めていることを裏付けています。

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