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Ascend Consultancy, 航空専門家の視点

Ascend Consultancyによる今後の展望:OEMの新たな世界秩序

November 23, 2022

ボーイング社が2025年に月間50機を製造するという計画は、大きな意味があります。なぜなら、今後の市場シェアを同社がどのように捉えているのかが、ここからわかるからです。

Rob Morris, Ascend by Cirium

筆者:Rob Morris, Global head of consultancy at Ascend by Cirium

先週行われたボーイングの投資家向け説明会では、同社が2025年に737Maxの月産レートを50機(月産50機)とする計画であるというコメントが、やや控えめに発表されました。この時点まで、ボーイング社は将来の生産レート計画について沈黙を守っており、「現行の」月産31機で統一する意向であるとだけ述べていました(「現行の」と括弧付きで書いたのは、Ciriumの最初のフライトデータでは現在の生産レートが20機に近く、シアトルでのサプライチェーンの遅延が、ボーイングが認めるよりもずっと悪化していることを示唆しているためです)。ボーイング社が2025年に月間50機を製造するという計画は、大きな意味があります。なぜなら、今後の市場シェアを同社がどのように捉えているのかが、ここからわかるからです。

忘れてはいけないのは、ボーイング社と同じようにサプライチェーンの問題で増産が遅れているにもかかわらず、エアバス社は以前から、2025年にA320ファミリーの生産レートを75機にすると主張してきたことです。したがって、現段階においては、レート65(月産65機)は2024年初頭に、レート75は2025年にそれぞれ達成すると見込まれています。エアバス社は、レート75は需要によって正当化されると主張しています。額面通りに解釈すれば、現在の6,146機の受注残は、現在のレート45で12年、レート75を適用すれば7年の生産機数に相当することになり、この点に異議を唱えることは困難です。同様に、ボーイング社の受注残は4,238機(このうち会計基準ASC606適用の684機は納入されない可能性が高く、受注残はさらに3,554機に減る可能性があります)となっており、レート31で11年強、レート50ではもっと短い7年弱の生産機数にそれぞれ相当します。

しかし、これらの数字を見る上で最も重要なポイントは、ボーイング社が、エアバス社よりも低い市場シェアを暗黙のうちに受け入れているように思われることです。デュオポリー(2社寡占)が続く限り、シングルアイル機の市場シェアは、OEM2社の間において50対50で正しく均等に分けられるというのが作業仮説(暫定的な想定)となります。ボーイング社はかなり最近になって、将来の受注残の市場シェアは、その水準に落ち着くという趣旨の発言さえしています。しかし、そうなることは皆無ではないにしても、明らかに暫くは考えられないでしょう。両社の受注残の市場シェアは既に60対40(6,146機対4,238機)となっており、エアバス社側に軍配が上がっています。エアバス社の市場シェア拡大の牽引役はA321neoで、現在の受注残高は3,677件(A320ファミリー全体の受注残の約60%)となっており、ボーイング737Max 10の受注残高784件(Maxファミリー全体の受注残の約18%)と比較すると非常に有利な位置にあります。そして今、ボーイング社は生産レートに関する声明で(少なくとも2025年においては)、生産面で60対40というシェアを受け入れることを暗黙のうちに認めたようです。実際、2025年にはエアバス社もA220をレート14で製造するため、ボーイング社のシングルアイル機のシェアがさらに36%程度に低下する可能性があり、ボーイング社にとって状況は一段と悪化します。

ボーイング社の立ち位置は、機体認証の問題でもっと複雑になる可能性があります。

Max 7もMax 10も、Maxファミリーのコンセプトを根本から覆しかねないコックピットの設計変更を避けるために、2022年に認証を取得する手筈になっていました。ボーイング社は先週、この認証について、Max 7が2023年に、Max 10が2024年にそれぞれずれ込む可能性があることも示唆しています。どちらの遅延の問題についても、当局が免除を認めて現行設計の維持を許可するためには、何らかの政治的決断が必要です。しかし、率直に言って、機体の認証期限の延長が認められれば、ボーイング社だけでなくエアバス社にとっても利益となります。

市場はシングルアイル機への嗜好性を明確に示しており、現行のMaxの設計と性能は明らかにその推進力となっています。

ボーイング社が向こう5年間までは、新設計の商用航空機を製造する見込みはないと最終的に表明したため、もはや賽は投げられたようです。エアバス社の方は少なくとも今後10年、現行のシングルアイル機の製造面では順風満帆にみえます。寝た子を起こさず、シェアを奪いに行くのでしょう。

さて、そんな市場をかき乱す「創造的破壊者」は現れるのでしょうか?初号機の納入を間近に控えたC919は、現在303機の受注が確定しており、これらはすべて中国国内の顧客向けとなっています。この受注残の内訳をみると、リース会社向けが225機で、航空会社については異なる5社向けの計60機に過ぎません。珠海市からさらに300件の受注があったという報告もあります。この機材調達プログラムは、オペレーティングリース会社からの受注の87%の市場シェアを占めているとみられます。これは、どのプログラムにとっても健全な状態ではなく、おそらくはこの航空機が今後も国内市場に限定されたものになるという認識を補強するものです。したがって、輸出市場のシェアを考える上では、この航空機はあまり重要ではありません。また、MC-21についても同様に、公称で175機の確定受注残があります。ウクライナ紛争が続く中、ロシアは国際市場からほとんど排除されたままです。MC-21は国内用機材にとどまり、やはり輸出市場とは無縁の存在です。

手短に言えば、「状況が変われば変わるほど、実は状況は変わらない」ということです。シングルアイル機市場では、エアバス社が60%以上のシェアを誇り、一見支配的に見えます。それでも、デュオポリーの状況は正当に固定され、維持されています。この現状がいつまで続くのか、またA320や737ファミリーの機材価値やリース料にどのような影響を与えるのかについては、時間が経ってみないと見えてこないでしょう。


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