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Ascend Consultancy, 航空専門家の視点

Ascend Consultancyによる今後の展望:ウクライナ紛争が世界の航空業界にもたらす脅威

March 18, 2022

今回のウクライナ紛争が航空業界の回復やロシアのリース旅客機に与える影響はどのようなものになるのでしょうか?

Rob Morris

筆者: Rob Morris, Global Head of Consultancy at Ascend by Cirium

ウクライナにおける紛争が民間航空機セクターに与える影響について、現在多くの疑問が投げかけられています。なかでも、重要な疑問が二つあります。一つは、地域的および全世界的に回復途中にある民間航空機セクターへの影響です。そしてもう一つは、国際的なリース会社によってロシアにリースされている民間航空機に対する見通しです。そうした民間航空機は、EUの制裁によって2022年3月28日(月)までにかかるすべての解約が義務付けられているのです。

この紛争が、2月24日(木)にロシアのウクライナ侵攻で始まったことを踏まえれば、それ以来、事態は極めて急速に動いています。現時点で停戦の兆しはなく、ウクライナ軍はロシアの侵攻を断固防ぎ続けていると報告されています。こうした状況下では、迅速な解決の兆候を示してくれるものは何もありません。その結果として、当初は機材の予備部品をロシア国内に輸入することを阻止するものでありながら、後にロシアへの機材リースにも異を唱えるものとなった前述の制裁を含め、ウクライナ支持国からロシアに不利益をもたらす政治的動きが(航空業界以外に関連するさまざまな問題に加えて)数多く出ています。

さらに、現在36の国が、自国の領空内でのロシア登録航空機またはロシア関連航空機の飛行を禁止しています。ロシアはこれらの禁止措置に対抗しています。直近では、ボーイングもロシアの航空会社への部品、メンテナンス、技術サポートサービスを停止したと報じられています(一連の制裁に呼応したものと推定されます)。

この数日にわたって起きたこれらの反応を認識した上で、上述の重要な疑問に戻った場合、現時点でどのような答えを出すことができるでしょうか?

新型コロナウイルスからの回復を見据えたシナリオでは、多くの地域でようやく新型コロナウイルスに対処できるようになり、旅行規制が緩和されたことを受けて、次は、苛立ちを募らせていた需要を解放させ、2021年の大半を通して観測された概して肯定的な需要の回復傾向が続くと考えられていたため、航空業界は世界的により前向きな2022年を期待していました。そこで、Ascend by Ciriumの需要回復シナリオでは、世界のフライトの数が2022年8月までに2019年水準の75%まで回復すると予想していました。

ウクライナの紛争とそれに続く領空制限は、その結果生じたヨーロッパとそれ以外の地域における経済の不透明さや世界的に石油燃料価格が広く高騰したことと合わさり、需要回復を著しく脅かしています。

その影響の規模をはっきりと表すには時期尚早ですが、何らかの早期解決をみない限り、2022年は先週発表したばかりの予測よりも困難な一年になるでしょう。

次に、ロシアの航空業界への影響について考えてみましょう。Ciriumのフリートデータによると、本レポート執筆時点(2022年3月2日)で、ロシアで就役中の861機の機材の中にボーイングの機材が約332機あることから、ボーイングがロシアの航空会社への技術サポートを停止したことにより、重大な影響が生じる可能性があります。すでに述べたように、EUの制裁下でロシア国内に予備部品を輸入することはすでに禁止されていますが、ロシアには部品の在庫がいくらかあると見られているため、ロシアが痛手を受けるには少し時間がかかると考えられます。

以下のグラフは、3月1日(火)、Ciriumの追跡データによって、1便以上運航した民間旅客機が460機検出されたことを示しています。その前の週の火曜日(2月23日)、紛争が始まるちょうど1日前は、537機の民間旅客機が運航していました。就役中の民間航空機はすでに7日前よりも15%減少しており、この傾向は、今後数日間から数週間のうちにより顕著になる可能性が高いと考えられます

Source: Cirium utilisation data

ボーイングは、ロシアへのリース航空機のオペレーティングリース解除も義務付けたEUの制裁を受けて、今回の決定を下しました。この制裁がロシア以外のリース会社からのリース民間航空機すべてに適用される場合(ほとんどの契約は、EU圏外に拠点を置くリース会社にも国際的な制裁の順守に関する文言を有するため、私たちは適用されると考えます)、861機のうち515機が影響受ける可能性があります。上位10位を示す以下の表に記されている通り、これらの機材はシングルアイル機(A320-200が112機、737-800が93機)で占められています。このリストでおそらくより顕著なのは、A320neoが45機、A321neoが21機含まれていることです。

Russian Aircraft Data
Source: Cirium Fleets Analyzer

リース解除要件を順守するという選択肢以外に、オペレーティングリースのリース会社がこれら515機の機材をどうするつもりなのか、現時点ではまだ判断できません。おそらくリース会社は、その時には機材と記録をロシア国外の格納先へ移転させる選択肢を選ぶことになるでしょう。

Ciriumのフライト追跡データを使って各航空機の最新着陸地を検出した結果、2月28日(月)時点で、約90機の航空機がすでにロシア国外にあることが判明しました。しかし、それ以来その数が82機に減少しているため、現在、少なくともリース会社は何も把握することができておらず、領空閉鎖という制約の中で航空会社は国内線といくつかの国際線の運航を通常通り継続しているだけであろうと推定されます。そのような状況では、時間だけが過ぎ、3月28日(月)までにそれらの機材すべてをロシアから安全に移動させることができるとは考えにくいのが現状です。

この観点から、現在、誰も航空機の価値とリース料金の見通しに対して経験に基づいた見解を示すことができないのは明らかです。最良のシナリオでは、もしこの紛争が早期にかつ安定的に解決されるなら、需要があるロシアのオペレーターにすべての機材を何とかして返却することができます。そして、最悪のシナリオでは、515機すべてが回収され、ロシア国外で顧客が存在する新しい拠点を見つけなければならなくなります。どちらのケースでも、価値やリース料に与える潜在的な影響について、限定的なものから壊滅的なものまで、仮説を立てることはできます。しかし、どちらのケースについても、より詳細な情報がわかるまで、理論上、その仮説の信頼性は低いものとなるでしょう。

したがって、Ascend by Ciriumではとりあえず、データを追跡するという十分に試行を重ねた手法に立ち戻ることとします。スケジュール、フライト追跡、フリート、取引額を注視しながら、この紛争が及ぼすありとあらゆる影響を検出し、分析を通してその影響を報告し、その影響が私たちの市場価値やリース料に関するデータにできるだけ早く反映されるよう取り組みます。最後になりますが、私たちはウクライナ、ロシア、そして全世界で起きているこうした事象によって影響を受けたすべての人々と想いを共にしています。

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